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「証券訴訟」とは|制度の概要・投資家の勝訴可能性

「証券訴訟」とは

証券訴訟とは、有価証券報告書等の虚偽記載(粉飾決算など)によって上場会社の株価が下落した場合に、投資家が提起する損害賠償請求の訴訟をいいます。

証券訴訟における損害賠償請求の法的根拠は、民法709条の一般不法行為のほか、金商法18条1項(発行市場での株式取得者に対する責任)、同21条の2(流通市場での株式取得者に対する責任)があります。

平成16年改正前の旧証券取引法(現在の金融商品取引法)においては、虚偽記載に関する規定としては発行市場での株式取得者に対する責任のみがあり、流通市場での株式取得者に対する責任の規定はありませんでした。

平成16年改正によって、流通市場での株式取得者に対する責任の規定が新設されました。なお、当初発行会社の責任は無過失責任とされていましたが、その後の平成26年改正において過失責任に変更されました。

虚偽記載に関する民事責任が法定されている趣旨

虚偽記載に対する特別の民事責任が規定されているのは、開示文書の虚偽記載が証券市場の透明性・公正性を害するものとしてもっとも非難されるべきものだからです。

虚偽記載は、有価証券の発行体自らが、投資家の投資判断に影響を与える企業開示情報に虚偽の記載をすることによって公正な市場価格の形成を阻害するものであって、証券市場の仕組みそのものをゆがめてしまうものです。

そこで、民事手続による被害者の救済を通じて虚偽記載を抑止することを目的として、虚偽記載に対する特別の民事責任が規定されました。

虚偽記載の対象となる開示文書の範囲

以下の開示文書に虚偽記載がある場合に、証券訴訟の対象となります。(流通市場での株式取得者に対する責任を前提にしています)

  • 有価証券届出書
  • 発行登録書
  • 有価証券報告書
  • 内部統制報告書
  • 四半期報告書
  • 半期報告書
  • 臨時報告書
  • 自己券買付状況報告書
  • 親会社等状況報告書
  • (これらの訂正報告書)など

*目論見書は対象外です。

証券訴訟の相手方(被告)となる者

証券訴訟の相手方(被告)となる者、つまり虚偽記載について責任を負う者は以下のとおりです。(流通市場での株式取得者に対する責任を前提にしています)

  • 会社
  • 役員等(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)
  • 発起人
  • 監査証明をした公認会計士または監査法人

証券訴訟の相手方になり得る者は以上のとおりですが、会社は無過失の立証責任を負うとされているなど、取扱いに違いはあります。そのため、会社に対する損害賠償は認められた一方、役員等に対する損害賠償は認められないという結論が生じることもあります。

投資家側の勝訴可能性

虚偽記載の内容や発生原因は会社内部の事情であり、証拠を得られないため投資家(原告)側が勝訴する余地はないのではないか、という疑問を抱く方もいらっしゃると思います。

しかし、上場企業の虚偽記載が発覚した場合は、調査委員会(第三者委員会)が組織され、その調査結果の報告書は公表されることが一般的です。
また、証券訴訟においては、先述のとおり会社の過失に関する立証責任は転換されており、一部の投資家については損害額の推定既定もあります。

そのため、虚偽記載が発覚したケースでは投資家側が勝訴する可能性も決して低いものではありません。近年でも、東芝の粉飾決算について個人投資家に対する賠償を認める判決が相次いで出されております。

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弁護士 渡辺泰央
弁護士 渡辺泰央
弁護士。上智大学法学部国際関係法学科、東北大学法科大学院卒業。2010年司法試験合格。2012年弁護士登録。第二東京弁護士会所属(登録番号:45757)。 インターネットの誹謗中傷・著作権関連事件の実績多数。トレントなどのファイル共有ソフトの利用やソフトウェアの不正インストールに関するケースも数多く手掛ける。