トレント(torrent)の使用で開示請求を受け、プロバイダから意見照会書が届いたというご相談をいただく機会が多くなっています。
ご相談者の方から受けるご質問については、共通する内容も多くあります(皆さま疑問やご不安に思われる点は同じということです)。
そこで今回は、トレント(torrent)の開示請求について、よくある質問を弁護士が解説します。
- Q プロバイダから意見照会書が届いたときは必ず開示されますか
- Q 非開示を目指すべきケースはどのようなものですか
- Q 開示に同意したくないのですが拒否の理由には何を書けばよいですか
- Q 開示に同意して示談を選択すべきケースはどのようなものですか
- Q 示談金の相場はいくらくらいですか
- Q 示談交渉をすることで示談金の減額はできますか
- Q 開示請求が複数届くことはありますか
- Q 追加の開示請求が届くのはいつまでですか
- Q 示談金を支払うことでかえって開示請求を受けやすくなるということはありますか
- Q トレント(torrent)の使用で逮捕されることはありますか
- Q 意見照会書を送ってきたプロバイダを解約してもよいですか
- Q 開示されると職場にもバレますか
- Q 個人で楽しむ目的のダウンロードでも開示されますか
- Q トレントの仕組みはどういうものですか
- Q 開示請求を受けたときに弁護士に依頼するメリットは何ですか
Q プロバイダから意見照会書が届いたときは必ず開示されますか
トレント(torrent)の使用について意見照会を受けた場合であっても、必ず個人情報が開示されるとは限りません。
ケースによっては非開示を目指すこともできます。
非開示を目指すべきケースで誤って開示に同意してしまうと、本来無用であるはずの示談金請求のトラブルに発展することになります。
そのため、意見照会書への回答内容は慎重に判断する必要があります。
Q 非開示を目指すべきケースはどのようなものですか
非開示を目指すべきケースは様々ありますが、代表的なものは開示請求者側の取得したIPアドレス等が不適切である場合です。
法的には、権利侵害の情報を送信したときに使用されたIPアドレスを割り当てられた回線契約者の情報が開示の対象となります。
しかし、ケースによっては、開示請求者側が取得したIPアドレスが、権利侵害の情報を送信したときに使用されたものとはいえない場合もあります。
このような場合は法的な開示請求の要件を満たすものではありませんから、こういったケースが非開示を目指すべき典型的なケースとなります。
Q 開示に同意したくないのですが拒否の理由には何を書けばよいですか
その発信者情報開示請求が、法律の要件を満たしていないという法的な反論を記載する必要があります。
拒否の理由については、以下の記事で詳しく解説しています。
もっとも、実際に記載すべき内容はケースによって異なりますので、拒否の理由の作成は弁護士に依頼することをお勧めします。
Q 開示に同意して示談を選択すべきケースはどのようなものですか
一刻も早く示談という形で紛争を終わらせたいという希望が強い場合は、開示に同意したうえでの示談を選択することになります。
また、示談をすることで刑事告訴の可能性をなくしたいという場合も示談をすべきでしょう。
その他、開示請求が認められる可能性が極めて高い場合は開示に同意して示談をした方が無難です。
このような場合は、プロバイダに対して開示に同意しないという回答をしても時間稼ぎにしかならず、最終的なトラブル解決までの期間が延びてしまうからです。
Q 示談金の相場はいくらくらいですか
示談交渉において、著作権者側から提示される示談金の相場は、1作品あたり30~70万円です。
また、「包括示談」のオプションを提示されることもあります。この場合の相場は70~80万円です。
示談金の相場や示談の流れ等については、以下の記事で詳しく解説しています。
Q 示談交渉をすることで示談金の減額はできますか
示談交渉をすることで示談金の減額を目指すことは可能です。当事務所でも、示談金の減額に成功した事例がございます。
過去の裁判例によれば、トレントを使用している期間中で増加した対象ファイルのダウンロードの件数 × 作品1つあたりの利益額で算定するという考え方が採用されました。
そのため、対象のファイルをダウンロードしていた期間を特定することで、ある程度正確な損害額を算定できます。そして、これによって算定した損害額が、著作権者側の提示額を下回る場合は、減額交渉の根拠になります。
もっとも、ケースによっては算定した損害額が提示額を上回ることもあります。示談交渉をしたからといって必ず減額できるというわけではありません。
また、いわゆる包括示談はあくまで著作権者側がオプションとして提示するものですので、包括示談の減額は困難といえます。
Q 開示請求が複数届くことはありますか
複数回の開示請求を受け、プロバイダからの意見照会書が2件目、3件目・・・と届くというケースも珍しくありません。
この理由は、著作権者側の事情が関連しています。
著作権者側はトレントを監視しIPアドレス等を取得していますが、その手段によっては得られるIPアドレス等の件数は非常に多くなることがありますし、また随時取得されていきますから、一度にすべての開示請求を行うことは現実的ではありません。そのため、著作権者側は何度も開示請求を行うことになります。
このような事情で、トレント(torrent)使用者のところにプロバイダからの意見照会書が複数回にわたって届くことがあります。意見照会書を受け取る側としては、嫌がらせであるとか、何か意図があって何度も開示請求を行っているのではないかと疑ってしまうこともあるでしょう。しかし、その可能性は低いと考えます。
Q 追加の開示請求が届くのはいつまでですか
トレント(torrent)の使用をやめてから何か月後、という明確な期間を提示することはできません。ただ、各プロバイダのログ保存期間が影響することは間違いありません。
各プロバイダにはログ保存期間というものがあり、それを経過するとプロバイダはIPアドレス等から契約者を特定できなくなります。契約者を特定できないと、意見照会書を送ることもできません。
そのため、少なくともトレント(torrent)の使用をやめてから契約しているプロバイダのログ保存期間が経過するまでは、開示請求が届く可能性があります。
ただし、著作権者側もプロバイダに対して一定期間のログの保存の要請をすることができます。また、開示請求がされてから意見照会書が届くまで数ヶ月のタイムラグがあることもあります。
そのため、ログ保存期間が経過したからといって直ちに開示請求が来なくなるというわけではありません。個人的には、ログ保存期間が経過してから半年程度は開示請求が届く可能性があると考えたほうが良いと思います。
Q 示談金を支払うことでかえって開示請求を受けやすくなるということはありますか
示談金を支払ってしまったためにかえって連続して開示請求を受ける、という可能性は低いと考えます。
この疑問はおそらく、示談金を支払ったという事実が(同業者間で)拡散・共有されたりするのではないか、という懸念があるためだと考えられます。しかし、示談金を支払ったという事実を(同業者間で)拡散・共有するという行為は、プロバイダ責任制限法7条に反するものです。
また、同じIPアドレスであっても、通信時間が異なれば割り当てられた契約者も異なることが一般的です。そのため、著作権者側においても、特定の契約者のみを狙い撃ちすることは難しいと思われます。
Q トレント(torrent)の使用で逮捕されることはありますか
逮捕される可能性はあります。詳しくは以下の記事で説明しています。
Q 意見照会書を送ってきたプロバイダを解約してもよいですか
意見照会書が届いた後であれば、プロバイダを解約しても開示手続に影響はありません。
そのため、解約したからといって何らかのペナルティが発生することはありませんが、一方で、解約したからといって開示を免れるわけではありません。
Q 開示されると職場にもバレますか
著作権者側が直接職場に連絡するということは考え難いところです。原則として職場は従業員のプライベートとは無関係ですから、職場にトレント(torrent)使用に関する通知を送付することはプライバシー権侵害になり得るためです。
そのため、開示されたからといって直ちに職場にバレるということはありません。
職場にバレるとすれば、強制執行として給与の差押えを受けるケースが考えられます。ただ、給与債権の差押えにはそれなりのハードルがありますので、開示請求に対して適切に対応する限り職場にバレるリスクを抑えることは可能です。
Q 個人で楽しむ目的のダウンロードでも開示されますか
トレント(torrent)においては、ダウンロードが完全に終了していないユーザー(リーチャー)であっても、ダウンロード済みのデータ(ピース)を同時にアップロードするという仕組みになっています。
つまり、アップロードの責任も問われることになるため、仮にダウンロードに問題がなかったとしても、違法アップロードを行った者として開示は認められることになります。
なお、個人で楽しむ目的(私的使用目的の)ダウンロードについても、それが違法ダウンロードに該当する場合は著作権侵害の責任を負うことになります。
違法ダウンロードについて詳しくは下記の記事で解説しています。
Q トレントの仕組みはどういうものですか
トレントの仕組みは過去の裁判例で簡潔に説明されていますので、それをベースにファイル共有の流れを解説します。(東京地判令和5年10月30日の判示部分より)
- ビットトレント(BitTorrent)を利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現されます。
- 上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されています。
- 共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースに係る情報などが記載されています。
- そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成されます。
- ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする利用者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得することが一般的です。
- 端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等の情報のリストを取得します。
- 上記の手順でピアとなった端末は、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受けます(ダウンロード)。
- また、上記の端末(ピア)は、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送します(アップロード)。
- このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得することとなります。
>>トレントの使用者が特定される仕組みについては以下の記事で解説しています。
Q 開示請求を受けたときに弁護士に依頼するメリットは何ですか
弁護士に依頼するメリットは、以下の記事で解説しています。
トレント(torrent)の開示請求でお困りの方は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。