著作権侵害の開示請求 拒否する場合の「不同意の理由」書き方を解説
「侵害された権利」の欄に「著作権」と書かれた意見照会を受け取ったとき、拒否(不同意)の理由の書き方がわからないという方がいらっしゃると思います。
この記事では、著作権侵害を理由とした発信者情報開示請求を受けた場合のよくある反論とその書き方について解説しています。(すべての反論について解説しているわけではありません)
著作権侵害の成立要件
法律上、著作権侵害(民事)が成立するためには、以下の要件が必要です。
① 著作物性がある
② 開示請求者が著作権を保有している
③ 法定利用行為がある
④ 権利制限規定にあたらない
この①~④いずれかが認められない場合にはプライバシー権は成立しません。そのため、開示請求を拒否(開示に同意しないと回答)する際は、このいずれかが認められないことを拒否の理由に記載することが有効です。
もっとも、実際に不同意の理由として記載するものは、①か④がほとんどです。そのため以下では①と④について解説します。
著作物性に対する反論
著作物性とは、その表現(作品)が著作権の保護を受けることを意味します。
著作物性のないものは、転載したりしても著作権侵害にはなりません。
そのため、転載した表現に著作物性がないことは開示請求に対する反論になり得ます。
ただし、イラスト、動画、写真、音楽などはほとんど著作権の保護を受ける(著作物性がある)といえます。そのため、これらの転載のケースではこの反論は難しいでしょう。(独創性の低い、家族のスナップ写真であっても著作物性が認められた裁判例があります(東京地判平成18年12月21日・知財高判平成19年5月31日〔東京アウトサイダーズ事件〕))
一方、文章については著作権の保護を受けるものと受けないものがあり、この反論が有効となるケースがあります。特に、短い文章で、かつ独創性(オリジナリティ)が強くないものは、著作権の保護を受けないと考えられる傾向があります。
そのため、「文章」について著作権侵害を主張されている場合は、反論として著作物性がないことを主張できる可能性があります。
「○○」という表現について著作権侵害を主張されていますが、「○○」は短文であり独創性が高いともいえません。そのため、著作物性が認められないと考えます。
権利制限規定に関する反論
権利制限規定とは
著作権の保護を受ける作品であっても、利用の仕方によっては著作権者の許諾を受けずにその作品を利用することができます。つまり、ある利用方法の下では著作権は制限される場合があります。
著作権が制限される場面は法律に規定があり、以下がその一覧です。(なお、このような規定を『権利(著作権)制限規定』といいます。)
• 私的使用のための複製(著作権法第30条)
• 付随対象著作物の利用(著作権法第30条の2)
• 検討の過程における利用(著作権法第30条の3)
• 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(著作権法第30条の4)
• 図書館等における複製・インターネットの送信等(著作権法第31条1項)
• 国立国会図書館における蔵書等の電子化、インターネット送信等(第31条第8項)
• 引用(著作権法第32条)
• 教科用図書等への掲載(著作権法第33条)
• 教科用図書代替教材への掲載等(著作権法第33条の2)
• 教科用拡大図書等の作成のための複製等(著作権法第33条の3)
• 学校教育番組の放送等(著作権法第34条)
• 学校その他の教育機関における複製等(著作権法第35条)
• 試験問題としての複製等(著作権法第36条)
• 視覚障害者等のための複製等(著作権法第37条)
• 聴覚障害者等のための複製等(著作権法第37条の2)
• 営利を目的としない上演等(著作権法第38条)
• 時事問題に関する論説の転載等(著作権法第39条)
• 政治上の演説等の利用(著作権法第40条)
• 時事の事件の報道のための利用(著作権法第41条)
• 裁判手続等における複製(著作権法第42条の2)
• 立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等(第42条)
• 審査等の手続における複製(第42条の2)
• 情報公開法等による開示のための利用(著作権法第42条の3)
• 公文書管理法による保存等のための利用(著作権法第42条の4)
• 国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製(著作権法第43条)
• 放送事業者等による一時的固定(著作権法第44条)
• 美術の著作物等の原作品の所有者による展示(著作権法第45条)
• 屋外設置の美術の著作物、建築の著作物の利用(著作権法第46条)
• 美術または写真の著作物等の展示に伴う解説・紹介のための利用(著作権法第47条)
• 美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(著作権法第47条の2)
• プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(著作権法第47条の3)
• 電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(著作権法第47条の4)
• 電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(著作権法第47条の5)
• 翻訳、翻案等による利用(著作権法第47条の6)
このうち、著作権侵害の開示請求を拒否する不同意の理由として利用できるのは「引用」です。
その他の規定は、特殊なケースでない限りは主張することは難しいといえます。インターネット上での転載は、公衆送信権・送信可能化権の侵害も問題となりますから、たとえ営利目的でなくても「私的使用のための複製」で正当化することはできません。
「引用」にあたるとの主張
他人の著作物の利用でも、その利用の仕方が「引用」にあたる場合は、著作権侵害は成立しません。
どのような場合に引用にあたるかは難しい議論がありますが、反論する際には以下の①~④すべてを記載することが望ましいといえます。
① 明瞭区別性
どこからどこまでが他から引っ張ってきたものかハッキリわかるようにするということです。引用符( “” )をつけたり、枠で囲んだりすることです。
② 主従関係
自分の作った部分がメイン(主)で、転載の部分がサブ(従)の関係にあることをいいます。
③ 引用の目的上正当な範囲内
引用の必要性と、その必要性との関係で適切な範囲を転載したかということです。
④ 出所の明示
出典元を明記することです。
引用を主張する場合の記載例については、次のようになります。
今回私が行った転載は、次のとおり「引用」として許されると考えます。
本件では、転載部分は引用符で区別していますし(①明瞭区別性)、分量としても、私の創作したコンテンツが記事の大部分を占めており、転載部分はわずかです(②主従関係)。
また、転載の目的は、その表現の内容を批評する目的ですが、転載した部分はその目的のため必要な範囲内といえます(③引用の目的上正当な範囲内)。
さらに、URLを記載する形で出典元は明記しています(④出所の明示)。
著作権侵害のケースでのよくある拒否理由の書き方の説明は以上のとおりですが、もちろん具体的な記載はケースによって違いますし、実際に文章にするのが難しい場合もあると思います。
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