運営者視点からみる「WELQ」炎上事件とキュレーションサイトの法的リスク
株式会社ディー・エヌ・エーの運営するサイト「WELQ」が”炎上”し、全記事の非公開に至ったという報道が話題となっています。
(平成28年11月29日 株式会社ディー・エヌ・エーHPより)
すでに多くのメディアが問題の分析や指摘を行っておりますので、本記事では、サイト運営者の視点から今回の事件の分析をしてみたいと思います。
キュレーションサイト側の狙い
キュレーションサイトに限らず、ウェブ上のメディアは独自の記事をより多く持つことをひとつの目標としています。
そうすることでSEO対策につながり、アクセス数が稼げるからです。
アクセス数が稼げることがメディアサイトの正義であり、それを強く推し進めたのが今回の事件の要因のひとつとなっています。
”独自の記事をより多く持つ”ための手段として、DeNAは外注のライターや一般ユーザーに記事作成を行わせていましたが、この手段にある法的リスクが今回の事件を引き起こしたといえます。
どのような点を法的リスクとして認識すべきだったか
「WELQ」のようなサイトを運営するにあたっては、次のような法的リスクを認識すべきといえます。
(1) 外部ライターや一般ユーザーの作った記事でも、サイト側が責任を負う場合がある
「”炎上”のきっかけとなった記事は外部ライターや一般ユーザーが作成したもので、サイト側に責任はない」とすることはできません。
確かに、記事を作成した人の責任もあるかもしれません。
しかし、そのこととサイト側が責任を負うかどうかは別問題です。
特に、サイト側はシステムを管理していますし、作成された記事によって利益を得ています。これらの事情からすれば、記事の内容についてサイト側が責任を負わないと法的に判断されることはないでしょう。
そのため、外部ライターや一般ユーザーが他の記事をコピペするなどして著作権侵害をしたり、法令違反の記事を掲載した責任は、サイト側に降りかかってくることもあるのです。
(2) 契約によっても法的リスクを記事作成者に転化することはできない
外部ライターや一般ユーザーに記事を作成してもらうにあたって、何らかの契約(主に記事の著作権に関して)を結ぶことが通常です。
しかし、この契約だけでは法的リスクを排除しきれません。
なぜなら、契約とは契約当事者だけを拘束するもので、第三者は無関係だからです。
そのため、記事が国の規則に違反していたとか、記事によって第三者に損害が発生したというケースでは、サイト側は記事作成者との契約を盾にして戦うことはできません。
場合によっては、「作成した記事によってサイト側に損害が生じたときは、記事作成者はその損害を補填する義務を負う」などという契約条項が盛り込まれることもあります。
このような条項によって、(有効性が認められた場合に限られますが)ある程度損害を記事作成者に転化させることは考えられます。
しかし、それでもひとたび”炎上”したときのサイト側のレピュテーション低下は避けることはできません。
(3) 利用規約だけでは、法的リスクを排除しきれない
「WELQ」の利用規約には、次のような条項があったようです。
「当社は、本サービスの内容、ならびに利用者が本サービスを通じて入手したコンテンツ及び情報等について、その完全性、正確性、確実性、有用性等につき、いかなる責任も負わないものとします。」
これにより、記事の内容に誤りがあったとしても、サイト側は閲覧者に対して責任を負わないと読めます。
しかし、このような規定も万全ではありません。なぜなら、事業者の責任を一切免除するような条項は、消費者契約法により無効となるからです。
もっとも、これを見越してか、「WELQ」の利用規約には次のような条項もありました。
「本注意事項において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由により利用者に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償するものとします。また、当社は、当社の故意または重大な過失により利用者に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。」
消費者保護法によって認められる軽過失の一部免責を規定するものです。ただ、上限が1万円となっており、この額が「消費者の利益を一方的に害する」と判断されれば、やはり消費者保護法により無効となります。
さらに、利用規約はサイト側とユーザーの法的関係のみを縛るものです。国の規制などは別問題ですから、どんなに利用規約を工夫したとしても国の規制を免れることはできません。
法的リスクを効果的に排除するには??
配信の前にしっかり内容をチェックするなど、記事の配信に関して責任ある監督をすべきことに尽きます。
今回の事件により、「記事作成者とサイト管理者が一致しないケースでも、サイト管理者も記事の内容について責任を負うことがある」ということがより明確になりました。
”とにかく記事の量を確保し、問題点を指摘されたときに後から修正すればいい”という考え方は極めてリスクの高いものいえます。
キュレーションメディアは、流行の裏で法的リスクも多く指摘されているものです。運営する際はしっかり法的リスクを認識し、それをできる限り排除する体制の構築が必要でしょう。
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【関連記事】
”自炊”で逮捕? 自炊代行の問題点
いわゆる”自炊”を代行する業者が逮捕されたという報道がなされました。
古書店へ転売も、書籍の「自炊代行業」男性を逮捕
(平成28年11月30日 一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)HPより)
差止や損害賠償などを求める「民事」の事件はこれまで何度か報道されましたが、逮捕など「刑事」の事件が報道されたのは今回が初のようです。
自炊で逮捕に至るのか、疑問に思われるか方や不安をおぼえる方もいらっしゃると思いますので、今回は”自炊”の問題点についてまとめてみます。
そもそも”自炊”とは??
”自炊”とは、本や雑誌などをスキャナなどを使ってデジタルデータにする行為です。
タブレット端末などの普及により、本や雑誌をデジタルデータとして閲覧することがますます便利となりました。
また、デジタルデータは場所をとらないのでスペースの節約ができ、劣化もしません。
このような理由から、手持ちの本や雑誌をデジタルデータ化する行為、つまり”自炊”は一般的なものとなっています。
ただ、”自炊”の作業は楽ではありません。一般的な”自炊”の方法は、背表紙を裁断するなどしてページをばらばらにし、それをスキャナに流すというものです。
一冊だけでもそれなりの労力を使うものですから、これを膨大な量の本や雑誌について行おうとすると、かなりの手間と時間がかかってしまいます。
そこで登場したのが”自炊”の作業を本人に代わって行うとする業者で、これが「自炊代行業」とよばれるものです。
”自炊”は違法??
「私的使用のための複製」(著作権法30条)にあたる限り、”自炊”は違法ではありません。
ポイントは、
① 私的使用目的で行うこと
② 使用する者が自分で行うこと
この2点です。
つまり、自分で楽しむために自分で”自炊”の作業を行う限り、違法ではありません。
一方、自炊代行業は、このうちの②が欠けますので、違法と判断されます。(2016年に最高裁で確定しました。)
ただ、自炊代行業も一定のニーズがあるところで、これを違法と判断することは時代に合わないなどといった批判も根強く、”自炊”についての議論が終わったわけではないようです。
今回のケースは何が問題だった??
報道によれば、今回逮捕された自炊代行業のケースは、”自炊”によって得られたデータを他人に転売などしていたという点が特徴です。
つまり、②が欠けるばかりか、そもそも①すら欠けていたというケースです。
自炊代行業肯定論の根拠となっているのは、”業者は顧客の作業を手伝っているだけ” つまり ”業者側は得られたデータは使用せず、データはあくまで顧客が私的使用をするためだけのものである” というものでした。
今回のケースは、業者側もデータを販売するなどしていますから、そもそも私的使用目的ですらなく、どのような考え方によっても違法となる悪質なものでした。
安心して”自炊”を行うためには?
やはり自分自身で”自炊”の作業を行うのが無難でしょう。
(”自炊”の目的で裁断機やスキャナを貸し借りする行為は適法です。)
近しい人に手伝ってもらって一緒に作業を行う程度であれば許され得るでしょうが、自炊代行業を利用する際はやはり著作権に留意しなければいけません。
他人の著作物を無断で複製して販売するなどの行為は犯罪ですから、注意しなければ思わぬところで犯罪に巻き込まれることもあります。
著作権違反の責任は決して軽いものではありません。”自炊”を行う際は、ルールやマナーを正しく守って行いましょう。
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【発信者側】開示請求訴訟で請求棄却に成功しました その2
私が発信者側で担当した発信者情報開示請求訴訟で、勝訴(請求棄却)判決を得ることができましたので、お知らせいたします。
※ 前回紹介したものとは別件です。
請求棄却判決が得られたのは、どのような事件だった?
詳細はお伝えできませんが、前回と同様、ある企業に関する投稿が開示対象として争われた事件です。
企業には公的な要素もあるといえますので、企業に関する投稿については、「正当な言論」と判断されるケースが少なくない印象です。
裁判にはどのような形で関わった?
前回と同様、「開示に同意しない(拒否する)」と回答するとともに、「発信者の投稿は違法ではなく、開示の対象にならない」という内容の意見書を裁判所に提出しました。
また、併せて証拠も提出しております。
勝訴の決め手は?
「投稿内容が真実であること」を示す証拠が多くあったことと考えています。
名誉毀損を理由としてなされる発信者情報開示請求訴訟では、「投稿内容が真実であるかどうか」が最も重要な事項のひとつです。
もちろん証拠がなくても戦う余地は十分ありますが、証拠がある方がより効果的に反論できることは確かです。
今回裁判所に提出した証拠はメールやLINEのキャプチャ画像なども含まれました。このようなものでも証拠として高い価値があることが多くあります。
手持ちの証拠が価値の低いようにみられるものであっても、理論の組み立て方や見る角度によっては有効な証拠になることもよくありますから、ささいな反論材料しかないと考えて諦めることは非常にもったいないことです。
不利に思える状況であっても、やはり一度は弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼できることや費用の目安等についてはこちらをご覧ください。
発信者情報開示請求について、発信者側の解説記事についてはこちらをご覧ください。
【サイト・サーバ側】投稿型サイトの管理者が負う法的責任とは?
インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害が話題になるとき、しばしば取り上げられるのが”サイト管理者の責任”です。
例えば、他人を誹謗中傷するような情報が電子掲示板に投稿されたとき、責任を負うべき人はその投稿をしたユーザーです。
しかし、このような場合、情報を掲載していた掲示板の管理者には、全く責任はないのでしょうか。
今回は、他人の権利を侵害するような情報が投稿されたとき、サイト管理者が負うべき法的責任について解説してみます。
そもそも、サイト管理者が責任を負うことはある?
”他人の権利を侵害するような情報を投稿したのはユーザーであって、サイト管理者は無関係”と考えている方も、中にはいらっしゃると思います。
しかし、過去の裁判例には、サイト管理者に数百万円の損害賠償を認めたものがあります。
このケースは、投稿された情報が名誉毀損にあたるものでした。しかし、プライバシー権侵害や著作権侵害のケースであっても同じように考えられます。
ユーザーから投稿を受け付けるようなサイトの管理者は、口コミサイトであれ動画サイトであれ、投稿されたコンテンツについて責任を負うことがあるのです。
投稿型サイトの管理者が負う3つの責任
投稿型サイトの管理者は、大きく分けて次の3つの責任を負うことがあります。
(1) 削除義務
投稿された情報が他人の権利を侵害するものである場合、サイト管理者は、そのような情報を”削除する義務”を負うことがあります。
サイト管理者がこの削除義務を負うケースは、被害を受けた人に「差止請求」が認められる場面です。
例えば、著作権侵害や商標権侵害がなされたとき、被害者に「差止請求」が認められることは法律に明記されています。
また、法律に明記されているものでなくとも、「差止請求」が認められることがあります。名誉権やプライバシー権などの「人格権」が侵害されるケースが典型です。
名誉毀損やプライバシー侵害を理由とした削除請求は多くなされていますが、これらは、実は解釈によって認められるものなのです。法律に明記されていくとも”削除義務”が認められることがあるために、サイト管理者が対応に苦慮することがあり、また削除が妥当かどうかの議論もしばしば生じるのです。
(2) 発信者情報開示義務
匿名で投稿がなされた場合、被害を受けた人は発信者が誰か分かりません。
そこで、発信者を特定するために、サイト側に発信者に関する情報の開示を求めることがあります。
この開示請求は、いわゆるプロバイダ責任制限法に定められているもので、この法律の要件を満たす場合には、サイト管理者に発信者の情報(IPアドレスなど)を開示する義務が認められることになります。
(3) 損害賠償義務
サイト管理者は、情報の掲載によって被害を受けた人に対して直接損害賠償義務が認められることがあります。
例えば先ほど述べた裁判例では、サイト側が削除義務を怠ったために、損害賠償義務があると判断されています。
もちろん、人の権利を侵害するような情報が投稿されたからといって、直ちにサイト管理者が損害賠償責任を負うわけではありません。
しかし、だからといって”サイト管理者は法的責任を負うことはない”と考えることは決してできませんので、注意しましょう。
このように、投稿型サイトの管理者もさまざまな法的責任を負うことがあります。(なお、上に挙げたものは民事的な責任ですが、場合によっては逮捕などの刑事処分を受けることもあります。)
投稿型サイトは、板挟み
”サイト管理者の責任”を考えるとき、ひとつ注意すべき点があります。情報を投稿したユーザーが常に”悪者”というわけではないということです。
インターネット上に情報を投稿することによって、自身を表現したり、社会にメッセージを訴えるユーザーも多くいます。
そのような投稿に関して、他人に対するネガティブな内容を含むからといって、安易に削除したり情報開示したりしてしまうと、今度は投稿したユーザーの正当な利益を害することになります。
場合によっては、「表現の自由の侵害」や「プライバシー侵害」などとして、投稿者から損害賠償請求を受けることもあり得るのです。
つまり、投稿型サイトの管理者は、情報を投稿するユーザーと、その情報に触れるユーザーの”板挟み”の状態にあるといえます。
投稿型サイトの適切な運営とは
削除請求や開示請求がなされたとき、法的に見て適切な対応がなされているかがポイントです。
投稿型サイトの管理者は、ユーザーによって投稿されたものすべてを監視するまでの法的義務はないとされています。
しかし、そうであるからこそ、削除請求や開示請求には適切に応じることが求められるのです。
”サイト管理者の責任”を考えるときは、違う立場のユーザーの板挟みにあるという状況を理解し、どちらのユーザーにも偏らないバランスを考えることが重要な視点といえるでしょう。
「WEBに関わる法律講座」の運営元である四谷コモンズ法律事務所では、投稿型サイト等の管理者向けのサービスを提供しております。問題が大きくなる前に、ぜひ本サービスをご利用ください。
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【関連記事】
第一回:【サイト・サーバ側】サイト管理者・サーバー管理者が負う責任
第二回:【サイト・サーバ側】削除・開示請求に備えた事前準備
第三回:【サイト・サーバ側】任意請求で削除・開示請求を受けたら?
第四回:【サイト・サーバ側】削除・開示請求には応じるべき?
【写真・カメラと著作権】デジタル時代の写真と法律の基本
写真には、さまざまな法律問題が関係します。
そして近年では、プロの写真家の方や、カメラを趣味にされている方に限らず、ほとんどの人が写真の法律問題を意識する必要があるといえます。
なぜなら、最近ではほぼすべての携帯電話・スマートフォンにカメラ機能が付いているからです。
そこで、デジタル時代の写真と法律の関係について、分かりやすく解説してみたいと思います。
ほとんどすべての写真に著作権が認められる
人が写真を撮ったとき、その写真には著作権が認められることがあります。
そして、写真に著作権が認められるハードルはかなり低く、ほとんどすべての写真に著作権が認められると考えられています。
プロの撮影した写真には目を見張るものがありますが、その域にまで達していなくても、著作権は認められます。
過去の裁判例で、単なる家族写真(奥さんが夫と子を撮ったもの)にも著作権を認めたものがありました。
そのため、”あまり上手に撮れたものでないから、著作権などないだろう”と考えることは誤りです。
”人がカメラを構えてシャッターを押した写真”であれば、著作権が認められると考えましょう。
(以前、サルがシャッターを押した写真の著作権が問題となりましたが、こちらは著作権が認められないことになりました。)
著作権侵害になる範囲は広くない
多くの写真に著作権が認められるとしても、著作権侵害になる利用形態は限られています。
著作権侵害になる典型例は、その写真をコピーしたとか、一部をトリミングをして使ったような場合です。
逆にいえば、そのような利用形態でない限り、著作権侵害になる場面は少ないです。
例えば、撮影場所が同じとか、構図が似ているとか、そのようなケースでは著作権侵害にはならないことが多いでしょう。
人が写り込んでいるときは”肖像権”に注意する
街角などのスナップ写真は、その場所その時代の人々の生活を表すものとして、写真作品の一分野を構成するものです。
しかし、人を写すものは、肖像権の問題を避けて通ることはできません。
肖像権とは、簡単にいえば”自身の姿かたちを撮影されたり、それを公開されたりしない権利”をいいます。
近年ではSNSで簡単に写真を公開できるようになりましたから、最近では特に肖像権の意識の高まっています。
そのため、人の写る写真を撮影・公開するときは、肖像権を意識することが必要です。
スナップ写真の文化は、時代の流れによって変わってきているといえますので、現代の権利意識や価値観に沿うことが求められているといえるでしょう。
その他さまざまな法律問題も
例えば、撮影禁止の場所で撮影することは、民法上の不法行為になり得るほか、刑法上の建造物等侵入罪などに該当してしまうこともあります。
また、いわゆる盗撮などの行為は迷惑防止条例に違反し、刑事処分の対象にもなります。
その他、撮影場所占拠や鉄道の往来妨害など、マナーの問題にとどまらないケースも増えてきています。
法律問題に発展すると、損害賠償や逮捕・起訴などの問題になりますから、ルールは十分に守る必要があります。
いかがでしたでしょうか。
写真と人々の関わり方が大きく変化している時代ですから、写真の撮影・公開、利用には法律への意識が不可欠です。
特に注意すべき場面は次のとおりです。
・ 無断で写真を使用された
・ 他人が写っている写真を撮影・公開しようと考えている
・ 特殊な場所での撮影を考えている
・ 他人が撮影した写真を利用したい
・ 自分の写真が権利を侵害しているとして、法的な請求をされた
これらの場合は、重大な法的問題に発展する場合もありますので、判断に迷われた場合は専門家に相談しましょう。
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【ネットショップ側】クーリングオフしたいと言われたら?
運営しているネットショップで、商品がひとつ売れたので商品を発送したが、数日後、お客さんから「思っていたのと違うから、返品したい。」「クーリングオフできるはずだ。」と言われることがあります。
この記事では、このようなケースでどのように対応したらよいか、解説しています。
1.返品したい理由を確認する
商品を発送しているわけですから、売買契約は成立していると考えられます。
売買契約の成立後は、返品が認められるケースは限られます。
返品が認められる典型的な例は、商品に欠陥があるというケースです
今回のケースは、「思っていたのと違う」という理由ですから、検討すべきは「法定返品権」が認められるかどうかでしょう。
2.「法定返品権」が認められる場合かどうかを検討する
厳密には、ネットショッピングのような通信販売において、「クーリングオフ」という制度はありません。
もっとも、似たような制度はあります。それが、「法定返品権」というものです。
「法定返品権」が認められるときは、理由を問わず契約をキャンセルすることができます。
「法定返品権」が認められるのは、次の場合です。
商品が到着した日から8日を経過するまでの間に、キャンセルの連絡がネットショップ側に届いたとき
お客さんのところに商品が到着した日が基準となりますから、配達の追跡サービスなどで到着した日にちの確認は必須です。
3.「返品不可」の記載に効果があるか
ネットショップのサイト上に、「返品不可」と記載があれば、この法定返品権を認めないとすることができます。
しかし、これには細かい条件があり、サイト上のどこかに1つだけ「返品不可」と記載があるだけでは、法定返品権を認めないとする効果はありません。
4.返品にかかる費用は、負担しなくてよい
仮に法定返品権が認められるとしても、返品する際に必要な配送費などは、ネットショップ側で負担する必要はありません。
せっかく売れた商品が戻ってくるのは残念ですが、返品されたものを受け取り、代金も返せば対応は終わりです。
なお、返品された商品に破損・汚損がある場合は別問題です。破損・汚損の程度によって、返金しなければいけない額などは変わってくるでしょう。
トラブルを予防するには
「法定返品権」も踏まえた返品のルールを明示しておくことです。
法定返品権を認めないとするためには、法律に則った記載が必要です。
法的には、返品のルールの記載内容、場所、文字の大きさまで指定があります。
正確な記載をするにはやや面倒に感じるかもしれません。
しかし、法律に則った記載をすれば、法的にしっかり守られたネットショップ運営ができます。
キャンセルや返品、また商品に欠陥があった場合のルールは、やはり法的な観点から総合的に策定しておくことが必要です。
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【関連記事】
【ネットショップ側】顧客から注文をキャンセルしたいと言われたら?
【ネットショップ側】ショップ開設にあたって、気を付けるべき法律は?
【ネットショップ側】広告規制の考え方
【ネットショップ側】契約はいつ成立する? 契約成立するとどうなる?
【ネットショップ側】注文をキャンセルしたいと言われたら?
運営しているネットショップで、商品購入の申込み(注文)があったけれども、後日、申し込んだお客さんから「やっぱりいらないから、注文をキャンセルして。」と言われることがあります。
この記事ではこのようなケースでどのように対応したらよいかを解説しています。
1.キャンセルの理由を確認する
”商品を買いたい”という申し込みは、お店に届いた以降は、基本的に撤回(キャンセル)することはできません。
ケースによっては、法的にキャンセルが認められる場合もありますが、今回のケースのように「やっぱりいらないから」などのような一方的な都合では、キャンセルは認められません。
2.キャンセルを許容できるかを検討する
キャンセルが法的に認められないとしても、ネットショップ側でキャンセルを認めることは差し支えありません。
例えば、ネットショップの印象を悪くしないために、今回はサービスとしてキャンセルを認めてあげるという対応もよくあることです。
また、キャンセルの意向を無視して商品と請求書を送り付けても、お客さんから「いらないと言ったのに」などと言われて代金が支払われないこともあり得ます。そうなると、商品や代金の回収コストもかかってしまいます。
そのため、購入申し込みの対象となった商品が販売できなくなる不利益と、ショップの評判、代金回収コストなどを総合的に考慮して、キャンセルを許容できるかを判断しましょう。
キャンセルを許容する場合には、その旨をお客さんに伝えます。
キャンセルを認めず、あくまで販売するとした場合には、商品を引き渡し、代金を請求しましょう。
3.法定返品権には注意
ネットショッピングのような通信販売には、お客さんに「法定返品権」という権利が認められることがあります。
これについて詳しくはこちらで説明していますが、この権利が認められる場合、理由を問わず申し込みのキャンセルができることになります。
そのため、キャンセルの事例では「法定返品権」が認められるケースかどうかを必ずチェックします。
これが認められる可能性が高いと判断された場合は、キャンセルを認めるのが無難でしょう。
トラブルを予防するには
あらかじめキャンセルのルールを明示しておくことです。
ルールの例としては
・申込みのキャンセルには一切応じることはできません。
・商品発送前に限りキャンセルに応じます。
・●●日以内に入金がなければ自動的にキャンセルとします。
などが考えられます。
あらかじめキャンセルのルールを明示しておくことで、お客さんとのトラブルの大部分は解消できます。
なお、キャンセルのルールは、「法定返品権」なども踏まえ、総合的に策定しておくことをおすすめします。
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【ネットショップ側】ショップ開設にあたって、気を付けるべき法律は?
【ネットショップ側】広告規制の考え方
【ネットショップ側】契約はいつ成立する? 契約成立するとどうなる?
【発信者側】発信者情報開示請求を拒否する方法とそのメリット・デメリット
プロバイダから意見照会が送られてきたとき、開示に同意するか拒否するかを回答することになります。
通常の感覚としては、自分の個人情報が開示されてほしくない、つまり拒否したいと考えるのが普通でしょう。
そこで、拒否(不同意)の回答をする方法とそのメリット・デメリットをまとめてみます。
なお、意見照会とは何か、これが届いたときまず初めにやるべきことは、以下の記事にまとめています。
また、BitTorrent(トレント)などのファイル共有ソフトの使用に関して意見照会書を受け取った方は、こちらの記事もご覧いただければと思います。
拒否(不同意)の回答をする方法
拒否(不同意)の回答をする方法はシンプルです。
意見照会書に同封された回答書の「発信者側情報開示に同意しません」の欄に「〇」を付け、「理由」を書いて返送するだけです。
ここでほとんどの人がつまずくのが、「理由」の書き方がわからないということでしょう。
拒否(不同意)の理由の書き方については、次の記事で解説しています。
拒否(不同意)の回答をすることで開示を防げるか
拒否(不同意)の回答をして開示を防ぐことができるかどうかは、今回の開示請求がどのような方法でなされているか(任意請求なのか、裁判なのか)によって考え方が違ってきます。
任意請求の場合は、情報開示を防ぐことができることがほとんどです。
一方、裁判の場合は、いくら拒否(不同意)の回答をしても、裁判所が開示を認めれば開示されてしまいます。
そのため、単に拒否(不同意)の回答をするだけでは不十分な場合が多く、非開示を目指すためには法的に有効な反論を記載(場合によっては証拠を添付)する必要があるでしょう。
それぞれのパターンの考え方については、次の記事で解説しています。
拒否(不同意)の回答をするメリット
無条件での開示がなされない
開示に同意してしまうと、プロバイダはそれ以上の検討は一切せず、個人情報を開示します。
つまり、本来は開示されるべきでない場合であっても、個人情報が開示されてしまうのです。
拒否(不同意)の回答をすることで、個人情報がむやみに開示されることを防ぐことができます。
裁判所に厳しい基準で判断してもらえる
発信者情報が開示された後に待っているものは、ほとんどの場合、損害賠償請求です。
この損害賠償請求の中で、自分の主張を言いたいとお考えの方もいらっしゃると思います。
しかし、実は開示が認められる条件は損害賠償が認められる条件より厳しいものとなっています。
拒否(不同意)の回答をすると開示の是非を裁判所が厳しい基準で判断してくれますから、この点は発信者にとってメリットといえるでしょう。
拒否するデメリット
最終的な支払い額(損害賠償の額)が高くなる可能性がある
拒否(不同意)の回答をすると、開示請求者側はプロバイダを相手に裁判を続ける必要があります。
そのため、開示請求者側にこの裁判費用(弁護士費用)が追加で発生することになります。
一方、開示に同意した場合にはこの裁判費用(弁護士費用)は発生しません。
そして、開示後の損害賠償請求では、ほとんどの場合、①慰謝料のほか、②発信者特定にかかった調査費用(弁護士費用)も請求されます。
そのため、拒否(不同意)の回答をした場合、プロバイダを相手とした裁判の費用が上乗せされる結果、開示後の損害賠償の請求額が高くなることがあります。
しかし、発信者情報開示にかかった費用の全額が請求できるかどうかについて、裁判例は分かれています。
もちろん全額を請求できると判断されたケースもありますが、一部のみ認められるとされたケースのほか、全く認められないとされたケースもあります。
そのため、開示に同意したことで損害賠償の額が下げられるかどうかは賭けの要素があるといわざるを得ません。
謝罪がしづらくなる
開示に対して拒否(不同意)の回答したことは、開示請求者に伝わることがほとんどです。
そのため、後に考えを改めて謝罪しても、相手方がこれを受け入れるハードルは上がっているでしょう。
場合によっては示談での折り合いがつきづらくなることも考えられます。
しかし、発信者情報開示請求などは法律上の争いですから、人情などが入り込む余地は小さいものです。
謝罪をしたからといって、そこから直ちに損害賠償が小さくなることはありません。
謝罪がしづらくなるというデメリットは、法律問題に直接関係のないものであって、これにどこまで価値を置くかは、一歩引いた目で考える必要があります。
「悪いと思っている」「誠意を見せたい」などの理由から安易に開示に同意することは、法的な観点からはあまりおすすめできません。
BitTorrent(トレント)などのファイル共有ソフトの使用に関して過去の逮捕事例はこちらで紹介しています。
現状を正確に分析したうえでの対応を
開示に同意するか拒否(不同意)するか、どちらの回答をしたかで、その後の流れは大きく変わってきます。
場合によっては、回答を誤ったことで、取り返しのつかない事態に陥ることもあるのです。
プロバイダ等からの照会が送られてくると、発信者としては大きな不安を感じると思います。
しかし、落ち着いて現状を正確に分析し、適切な対応をとることで、不安を解消することができます。判断に迷ったときは、迷わず専門家に相談しましょう。
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発信者情報開示請求について、発信者側の解説記事についてはこちらをご覧ください。
【発信者側】開示請求訴訟で請求棄却に成功しました
四谷コモンズ法律事務所の弁護士、渡辺泰央が発信者側で担当した発信者情報開示請求訴訟で、勝訴(請求棄却)判決を得ることができましたので、お知らせいたします。
※ 新たに勝訴判決を得ることができました。詳細はこちら
請求棄却判決が得られたのは、どのような事件だった?
詳細はお伝えできませんが、ある企業についての投稿が開示対象として争われた事件です
裁判にはどのような形で関わった?
「開示に同意しない(拒否する)」と回答するとともに、「発信者の投稿は違法ではなく、開示の対象にならない」という内容の意見書を裁判所に提出しました。
意見書を提出した効果はあった?
十分あったと考えています。
特に、今回の事件では訴訟の前に仮処分が申し立てられていました。
この仮処分の段階では、投稿の違法性が認められ(IPアドレス等を)開示すべきとの判断が出されていました。
訴訟の段階で発信者の意見書を出さなければ、仮処分と同じような判断がなされていた可能性があったといえます。
悪口を書いてしまった以上、争う余地はないのでは?
確かにネガティブな内容の投稿をしてしまった以上、こちらの主張できることは限られますし、厳しい争いになることも少なくありません。
しかしそのような状況でも、あきらめずに開示請求者の主張を崩し、こちらの正当性を主張していけば、今回のケースのように開示が認められないという判断を得ることも可能です。
同じように、開示請求の照会を受けて困ったときはどうすれば?
迷わず専門家に相談しましょう。
発信者の中には、ネガティブな情報を書いてしまったことで引け目を感じ、相談しても無駄なのではないかと考えている方もいらっしゃいます。しかし、現状を専門家に分析してもらうことで、道が開けることも十分にあります。
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発信者情報開示請求について、発信者側の解説記事についてはこちらをご覧ください。
【サイト・サーバー管理者】削除・開示請求に関する裁判の対応方法について
削除・開示請求は、裁判という手続でなされることがあります。
裁判所からの通知が来たときは、本ページを参考にして、落ち着いて行動しましょう。
なお、サイト・サーバ管理者に対する裁判には、大きく分けて「訴訟」と「仮処分」の2つの手続がありますが、いずれも同様の対応をすると考えて差支えありません。
期日を確認する
裁判所からの書類には、必ず、「平成○○年○○月○○日、○○時○○分に、××法廷に出頭してください」という記載があります。
これに出頭しないと取り返しのつかないことにもなりかねませんから、この日程は必ず確認しましょう。
発信者に対して意見照会・意見聴取をする
発信者の連絡先がわかっている場合は、意見照会・意見聴取を行っておきましょう。
仮に任意請求から裁判に発展した場合で、任意請求の段階で既に行っていたとしても、改めて行っておくことが必要です。
一応争う姿勢はみせる
裁判において、”請求者の主張をすべて認める”などと答弁してしまうと、発信者からの損害賠償義務の理由になり得ます。
そのため、答弁書を作成・提出し、法的に問題となっているところを指摘したり、発信者からの回答を取り上げるなどして、裁判に争う姿勢は一応見せるのが無難だといえます。
裁判所の判断には従う
裁判を進めていけば、いずれ裁判所が何らかの判断(判決・決定など)をします。
裁判所の判断が出された場合は、その内容には素直に応じましょう。
発信者のためにあえて異議申立てや控訴を行う義務まではありません。
概略は説明したとおりですが、裁判手続の進行は専門性の高い問題ですから、裁判を起こされたらやはり一度専門家に相談することをお勧めします。
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